乾燥しがちな夏の口内ケアについて

乾燥しがちな夏の口内ケアについて

皆さんは、夏になると口の乾燥が気になりますか?
実は、気温が上がると唾液の分泌量が変化して、口の中は普段よりも乾燥しやすくなるのです。
口の中が乾燥すると、さまざまな弊害が口の中にもたらされます。
今回は、乾燥しがちな夏の口内ケアについて詳しく解説していきます。

なぜ夏になると口が乾燥するの?

なぜ、夏になると口が乾燥しやすくなるのでしょうか。
その理由には、以下の3つが挙げられます。
1、気温に対する体の反応
2、発汗量が増えることによる影響
3、ストレスによる自律神経の乱れ

気温に対する体の反応

外気温が上昇すると、体は自律神経の交感神経が優位になります。
交感神経は唾液腺からの唾液の分泌を抑制する効果があるため、唾液の分泌量が減少し、口の中が乾燥します。

発汗量が増えることによる影響

汗を大量にかくことで体内の水分量が不足し、唾液の分泌も減少します。

ストレスによる自律神経の乱れ

暑い日が続いたり、クーラーの効いた部屋にずっといたりすると、体は調子を崩してストレスを感じやすくなります。
ストレスを感じると自律神経が乱れ、交感神経が優位になって唾液の分泌を抑制します。

唾液の働き

では、唾液はどのような働きをしているのでしょうか。
実は、唾液には以下のような沢山の作用があります。
1、消化を助ける
2、粘膜や歯の保護・潤滑作用がある
3、抗菌・殺菌作用がある
4、口の中の酸性度を調整する
5、歯の脱灰を防ぐ
6、味を感じるために必要
7、食べ物を飲み込むために必要
8、汚れを落とす
9、体内の不要なものを排出する

消化を助ける

一部の糖質は、唾液の中の消化酵素によって部分的に分解(消化)されます。

粘膜や歯の保護・滑りを良くする作用がある

唾液の中には抗菌物質が含まれ、口の中に侵入する細菌やウイルスを殺菌したり、抗菌作用を示します。
また、傷口の治癒や炎症を抑制する作用も持っています。

口の中の酸性度を調整する

口の中のpH(酸性度)を調整して、酸性に傾いた口の中をアルカリ性にする作用があります。

歯の脱灰を防ぐ

歯は酸性になると溶け始めます。
これを、脱灰といいます。
脱灰は口の中が酸性に傾くと進行するので、唾液の酸性度調整作用によって、歯の脱灰が防がれています。

味を感じるために必要

食べ物の中の味物質は、唾液によって食べ物が溶かされると口の中に拡散されます。
拡散された味物質は口の中の味を感じる細胞と結合し、味を感じることができるのです。

食べ物を飲み込むために必要

唾液中の水分と糖タンパク質によって噛んだ食べ物は塊となり、飲み込みがしやすくなります。

汚れを落とす

歯についた汚れを洗い流すことで、むし歯や歯周病を予防します。

体内の不要なものを排出する

血液中の重金属や薬物代謝物、その他の体に不要なものやウイルスは唾液中に排出され体の外に出されます。

口の中が乾燥するとどんな影響があるのか

以上のように、唾液には多くの大切な役割があります。
では、唾液が減って口の中が乾燥するとどんな弊害があるのでしょうか。
口の中が乾燥すると、本来ならば唾液が洗い流してくれる悪玉菌が口の中に停滞しやすくなります。
すると、普段通りにブラッシングしていても以下のようなトラブルが起こりやすくなります。

1、むし歯や歯周病になりやすくなる
2、口臭がひどくなる
3、感染症にかかりやすくなる

むし歯や歯周病になりやすくなる

唾液には、
・口の中の汚れを洗い流しプラークの形成を抑制する作用
・唾液の中に存在する抗体による抗菌作用
があります。
唾液が減ることによって、プラークが形成され、歯に強固に付着しやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが上がります。
また、唾液が減ると抗体も減り、菌への抵抗力も低くなり悪玉菌が活動しやすい環境になってしまうのです。

口臭がひどくなる

口臭の原因は、主に口の中に形成されたプラークや、食べカス、そして増殖した悪玉菌です。
唾液が減って口の中が乾燥することにより、プラークの形成、食べカスの停滞、悪玉菌の増殖が促進され口臭がひどくなります。
舌に付く汚れも口臭の原因になります。
舌の汚れを取り除くには唾液の役割が大きいのですが、唾液の分泌が減少すると舌の汚れが残存し口臭が悪化します。

感染症にかかりやすくなる

唾液によって口腔内が湿潤していると、外部からの菌も定着や侵入がしにくく感染症の予防になります。
唾液が減ってしまうとこの抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなってしまいます。

口の中の乾燥を防ぐための方法

このように、口の乾燥は体にさまざまな悪影響を与えます。
それらを防ぐために、まずは口の乾燥を防ぐ方法を解説していきます。
口の乾燥を防ぐ方法には、唾液の分泌を促す方法と、不足した水分量を補う方法があります。

唾液の分泌を促す方法

唾液は、唾液腺という体の器官から分泌され、耳下腺・顎下腺・舌下腺の3つがあります。
唾液の分泌量は、安静時多い順に、顎下腺(70%)耳下腺(25%)舌下腺(5%)です。
唾液の99%以上は水分であり、残りは無機イオンとタンパク質、糖タンパク質で構成されています。
大人では、1日1〜1.5ℓの唾液を分泌しています。
それでは、唾液の分泌量を増やすにはどうしたらよいのでしょうか。
日常のちょっとした意識で、唾液の分泌量は増やすことができます。
1、よく噛んで食べる
2、こまめに水分をとる
3、鼻呼吸を心がける
4、舌を動かす
5、唾液腺をマッサージする

よく噛んで食べる

噛むことによって、唾液腺が物理的に刺激を受け、唾液の分泌が促されます。

こまめに水分をとる

唾液は99%以上が水分からなっているので、水分を沢山摂取することは唾液の量を増やすためにとても大切です。

鼻呼吸を心がける

口で呼吸すると、口の中が乾燥しやすくなります。
特に、マスク着用時は口呼吸になりやすいので注意が必要です。

舌を動かす

舌を動かすと、唾液腺が刺激されて唾液の分泌量が上昇します。

唾液腺をマッサージする

口の中には、沢山の小さな唾液腺が存在していますが、顎下腺・耳下腺・舌下腺の三大唾液腺が唾液分泌の大部分を占めています。
この三大唾液腺を優しくマッサージすると、唾液の分泌量を増やすことが可能です。

不足した水分量を補う方法

不足した水分量を補うにはやはり水を飲むのが1番です。
大人では、1日に1.5ℓの水を飲むことが推奨されています。
お茶やコーヒーは利尿作用があるので、水分補給を考えるとお茶やコーヒー以外がおすすめですが、飲めるのならなんでもよいと思います。
唾液は1日に1ℓ〜1.5ℓ出ます。
水分は一気に飲まず分散させて飲むことが大切です。
コップ1杯分(150〜250ml)の量の水を1日に6〜8回に分けて飲みます。
起床時や運動中、入浴後や就寝前がお勧めです。

夏におすすめの口内ケア

では次に、乾燥しがちな夏に、特に力を入れたい口内ケアのポイントを解説していきます。
ポイントは以下の5点です。
1、食後の歯磨き
2、歯磨き粉の使用
3、歯磨きの後のうがい
4、洗口剤の使用
5、歯ブラシ以外のアイテムの使用

食後の歯磨き

Children are brushing their teeth

口の中の唾液分泌量が低下し乾燥すると、プラークの形成・定着がよりし易くなります。
食後は細菌の活動が活発になるので、なるべく早めに歯磨きをした方が効果的です。
食後数時間で、プラーク形成に関与する細菌の活動が活発になり、約24時間かけてプラークを形成していきます。
その後、日数を追うごとにプラーク内の細菌の種類がどんどん変わっていき、悪性度を強めていきます。
どうしても毎食後の歯磨きが難しい場合は、就寝前の歯磨きを丁寧に行うことでむし歯や歯周病の発生・進行を防ぐことができます。

歯磨き粉の使用

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歯磨き粉はできるだけ使用しましょう。
歯磨き粉を使用した方が効果的に口腔内の健康を向上させることができます。
疾病対策予防センター(CDC)では、「すべての人々に対してフッ化物配合歯磨剤の利用を強く勧める」と推奨しています。
日本でも、厚生労働省は学齢期においてフッ化物配合歯磨剤の使用を90%以上にする目標を掲げています。
ただし、歯磨き粉は泡立ちの良すぎるものは泡で口の中がいっぱいになってしまい十分に歯を磨けないことがあります。
また、研磨剤が多く配合されていると、不必要に歯の表面を削り、知覚過敏の原因になったりもします。
歯磨き粉を選ぶ際は、
・高濃度のフッ化物が配合されている(ただし、低年齢児は注意)
・低研磨
・低発泡
のものを選ぶと良いでしょう。
それにプラスして、
・歯周病効果のあるもの
・知覚過敏抑制効果のあるもの
を選ぶとさらに効果的です。

歯磨きの後のうがい

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歯磨きをした後、しっかりうがいをしてしまうと、せっかくの歯磨き粉の効果が弱くなってしまいます。
日本口腔衛生学会では、歯磨き後のうがいは5〜15ml(大さじ一杯程度)の水で1回のみを推奨しています。

洗口剤の使用

夏の口内ケアに、洗口剤を使用するのも効果的です。
洗口剤には、歯肉縁上プラークの破壊や殺菌、プラークの再付着を予防する効果が認められています。
また、洗口剤を使用する際は、歯磨き直後に行うと歯磨き粉の有効成分を洗い流してしまうので、30分ほど時間を開けて行うようにしましょう。

歯ブラシ以外のアイテムの使用

その他のアイテムとして、おすすめなのがウォーターフロッサーと呼ばれる水の力で汚れを取り除く方法です。
水流を利用するので、歯ブラシなどが入り込めない小さな隙間の汚れを取り除くことができます。
据え置きタイプや携帯タイプなどさまざまなな種類が販売されています。

まとめ

暑くて湿気の高い夏なのに、口の中は乾燥していると聞いて、意外に感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
暑さによって口の中が乾く原因には、単純に汗で体内の水分が外に出てしまう以外にも自律神経によるものなどさまざまです。
唾液の分泌を増やすことと、口の中のケアを十分に行うことで、口の中が乾燥しても、その影響を最小限に抑えることができます。
最近では、歯ブラシや歯磨き粉、洗口剤、その他のアイテムなどたくさん種類があるので、お気に入りのものを選んでみるのもお勧めです。
乾燥しがちな夏の口内を、色々な方法で楽しく乗り切りましょう。

文:歯科医師 古山直香