皆さんは歯を磨く時、歯ブラシ以外の道具を併用していますか?
令和4年の全国調査において、約50%の人が歯ブラシ以外にもフロスや歯間ブラシを併用しているとの結果が示されました。
さまざまな場面で口腔衛生と全身疾患の関わりが取り沙汰され、近年人々の口腔衛生に対する関心はどんどん高まっています。
コロナ禍において、歯科医院での定期検診やクリーニングの受診率が下がり、人々の関心は「セルフケア」へシフトしていきました。
そんな流れの中で、再び注目されているのがウォーターフロス(口腔洗浄器)です。
このコラムでは、ウォーターフロスについて、その特徴やどんな場合に使用が勧められるのかなどについて解説していきます。
目次
・ウォーターフロスとは
・歴史のある口腔洗浄器
・なぜ使用率が低いのか
・日本人の口腔衛生に対する関心の低さ
・ウォーターフロスにおけるエビデンス(証拠)の不足
・ウォーターフロスとフロスの比較
・ウォーターフロスとフロスの違い
1,汚れの落とし方
2,コンタクトへの効果
3, 歯周ポケットに対する効果への期待
・現段階では、ウォーターフロスはフロスの代わりになりえない
・ウォーターフロスのメリット
1,歯周ポケット内の清掃に期待
2,ブリッジ、インプラント、矯正治療中の清掃に効果的
3,使い方が簡単
4,使用感がよい
・ウォーターフロスを使った方がよい人
1,予防意識の高い人
2,ブリッジ、インプラント、矯正治療中の人
3,フロスが苦手な人、手が不自由な人
・どんなウォーターフロスを選べばよいか
・コードレスタイプか据え置きタイプか
・水圧が調整できるもの
・ノズルなどの付属品が追加購入可能か
・まとめ
ウォーターフロスとは
ウォーターフロスは口腔洗浄器とも呼ばれます。
細いノズルの先端から高圧の水流を噴射して、水の勢いで歯に付いた汚れを取り除く機器のことです。
歴史のある口腔洗浄器
日本では1971年からアメリカの製品が輸入販売されるようになりました。
日本でも2020年にアメリカ製品が再販されて以降、関連各社が次々と消費者のニーズに応える製品を販売しています。
最近では持ち運びがしやすくデザインもスタイリッシュな製品が多くみられます。
なぜ使用率が低いのか
日本では、平成21年の国民健康・栄養調査にて水流式口腔洗浄器の使用率は3%でした。
なぜこんなにも低いのでしょうか。
その原因は、以下の2つが考えられます。
1、日本人の口腔衛生に対する関心の低さ
2、ウォーターフロスにおけるエビデンスの不足
1、日本人の口腔衛生に対する関心の低さ
日本では、口腔衛生になるべく時間とお金をかけたくないと考える人の割合が高いです。
サンスターが行った調査では、先進国6カ国中最下位の30%の人が時間やお金をかけたくないと思っている結果となりました。
日本では自分で歯ブラシで歯を磨けばよしとする人が多いのですね。
しかし、本当の口腔ケアでは、歯ブラシだけでなくその他の補助的な器具を使用したり、定期的に歯科医院を受診することが必要です。
2、ウォーターフロス分野でのアカデミックな研究不足
ウォーターフロスが本当に口腔衛生の改善に有効かを示す研究結果や学術論文は多くありません。
そのため、歯科医療者が一般の人に対しウォーターフロスをあまりお勧めしてこなかったことが、普及に対する壁となっています。
家電量販店での電動歯ブラシコーナーでPanasonicパナソニックやWaterpikウォーターピック、Sonicareソニッケアが先行してウォーターフロスを販売していますが、誰もが持っているほどの大きな普及とは至っていない、という現状です。
ウォーターフロスとフロスの比較
ウォーターフロスとフロスは、名前は似ていますが、大きな違いがあります。
ウォーターフロスとフロスの違い
ウォーターフロスとフロスの違いは以下の3点です。
1、汚れの落とし方
2、コンタクトへの効果
3、歯周ポケットに対する効果への期待
1、汚れの落とし方
ウォーターフロスはノズルの先端から放出される水の圧力で汚れを吹き飛ばします。
歯に付いた食べかすや、歯に付着する前のプラークを除去することはできますが、時間が経過して歯に付着したプラークを除去することは難しいです。
プラークは、食後8〜24時間で初期形成されるので、その前にウォーターフロスを使用することが効果的です。
フロスは歯にこすりつけることによって、物理的に汚れを取り除きます。
歯に付着したプラークでも除去できることがフロスの強みです。
しかし、フロスが接しなかった部分の汚れは残ります。
実際、歯は凹凸のある複雑な形をしているため、フロスですべてのプラークを除去するには限界があります。
2、コンタクトへの効果
歯と歯の間を専門用語でコンタクトと呼びます。
コンタクトに付いたプラークを取り除くことに関しては、物理的な接触を伴う分、水流によるウォーターフロスの除去よりも、フロスの方が適しています。
3、歯周ポケットに対する効果への期待
ウォーターフロスは、歯周ポケット内の浮遊性プラークを減少させる可能性があります。
歯周病で深い歯周ポケットが形成されている場合、ポケット内のプラークを減少させる効果が期待できます。
プラーク除去の観点ではフロスが最適
歯ブラシだけではプラークは全体の60%しか除去できないといわれています。
コンタクト部はプラークがたまりやすく、むし歯の好発部位です。
コンタクト部のプラークを取り除くことはとても大切であり、そのためにはやはりフロスを使うことが推奨されます。
ウォーターフロスのメリット
ウォーターフロスのメリットには、次の4点が挙げられます。
1、歯周ポケット内の清掃に期待
2、ブリッジ、インプラント、矯正治療中の清掃に効果的
3、使い方が簡単
4、使用感がよい
1、歯周ポケット内の清掃に期待
歯ブラシの場合、歯周ポケットの上部2mmのプラークしか除去できないと言われています。
歯周病とは4mm以上の歯周ポケットを有する状態を指します。
ウォーターフロスは歯周ポケット内の浮遊性プラークを除去する可能性があるので、歯周病ケアをしっかりしたい方にお勧めです。
2、ブリッジ、インプラント、矯正治療中の清掃に効果的
ブリッジのダミーの歯に相当する部分(ポンティック)やインプラントの頚部、矯正器具を装着している状態は、通常の歯ブラシやフロスだけでは汚れを落とすことが一段と困難です。
しかし、ブリッジのポンティック部と支台歯のつなぎ目はむし歯の好発部位。
ここからむし歯になると最悪の場合、ブリッジをやり直さなければなりません。
インプラントでは、頚部にプラークが溜まるとインプラント周囲炎となりインプラントが抜け落ちてしまう危険があります。
矯正治療は、歯に細かい器具を付けて行います。
器具を接着しているので歯ブラシの毛先は届きにくく、フロスを通すことも難しくなるのです。
ウォーターフロスであれば、物理的に接触させずに細かなところの汚れを落とすことができます。
過度な力も加わりにくいので、矯正器具を変形させる心配もありません。
最近では、矯正器具用のノズルが付属しているウォーターフロスもあります。
3、使い方が簡単
ウォーターフロスは、細いノズルを歯頚部に沿わせながら動かして使用します。
ある程度の練習が必要なフロスと違い、比較的簡単に使うことができます。
子ども用のウォーターフロスも販売されており、矯正治療中のお子さんにお勧めです。
ノズルを取り替えれば、家族で共有して使うことができます。
4、使用感がよい
ウォーターフロスは水で汚れを吹き飛ばすため、使用後はとてもすっきりとします。
機器の種類によっては、水でなく洗口液を使用することもでき、より爽快感が得られます。
ウォーターフロスを使った方がよい人
ウォーターフロスを使った方がよい人は以下の場合が考えられます。
1,予防意識の高い人
2,ブリッジ、インプラント、矯正治療中の人
3,フロスが苦手な人
1,予防意識の高い人
フロスや歯間ブラシを常に使用している人がウォーターフロスを利用すれば、セルフケアの質をさらに上げることができます。
フロスや歯間ブラシでは落としきれない食べかすや非付着性プラークを除去したり、歯周ポケットへのアプローチも期待できるためです。
2,ブリッジ、インプラント、矯正治療中の人
ブリッジやインプラントの治療を受けた人や、現在矯正治療中の人にもウォーターフロスはお勧めです。
歯ブラシや歯間ブラシなどが入らない小さな隙間でも、水流なら汚れを取り除くことができます。
ウォーターフロスであればフロスが使いにくい部分にも使用でき、ブリッジやインプラント、矯正治療をサポートできます。
3,フロスが苦手な人
奥歯や上顎など、フロスは時に使うことが難しいアイテムです。
口の奥に指を入れるので嘔吐反射が強い人だと、苦手意識を持つかもしれません。
ウォーターフロスはフロスの代わりにはなりませんが、役割を補うことはできます。
どうしてもフロスが苦手な人には、ウォーターフロスを使うことで、口腔内の健康を保つことができるでしょう。
どんなウォーターフロスを選べばよいか
ウォーターフロスは現在、さまざまなものが販売されています。
大きさや機能など各社特徴があるため、迷っている人もいるかもしれません。
どんなウォーターフロスを選べばいいのかポイントは以下の3点です。
・コードレスタイプか据え置きタイプか
・水圧が調整できるもの
・ノズルなどの付属品が豊富か・追加購入可能か
コードレスタイプか据え置きタイプか
現在、ウォーターフロスはコードレスタイプと据え置きタイプの2種類が販売されています。
外出先や旅行先でも使用したい場合はコードレスタイプがお勧めです。
据え置きタイプは、場所をとりますが、水を貯めるタンクも大きいので長時間の利用に優れています。
水圧が調整できるもの
水圧が強すぎると、逆に歯肉を痛めてしまいます。
できるだけ水圧は細かな調整ができるものの方がよいでしょう。
家族で使用する場合もそれぞれ必要な水圧は違うので、やはり調整できるものがお勧めになります。
ノズルなどの付属品が豊富か・追加購入可能か
ノズルの種類が豊富だと、それぞれを使い分け口腔内をしっかりケアすることができます。
最近では、矯正器具用や、舌用のノズルが付属している商品もあります。
また、家族など複数人で使う場合、ノズルが人数分必要になるので追加購入できるか確認しましょう。
まとめ
ウォーターフロスは、歯のすみずみまで届く力強い水流で、歯の間の汚れを洗い流すことに長けていて、使用後はとてもすっきりします。
洗口液対応の機種を使うことで、より爽快感を得ることも可能です。
その結果、歯周病やむし歯のリスクを下げ、口腔衛生を向上させます。
また、手間がかからず使いやすいので、忙しい日常でも継続しやすいです。
ぜひウォーターフロスを取り入れて、自信を持って笑える口元を手に入れましょう。
文:歯科医師 古山直香